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弁護士と弁護人
弁護士 栗 林 武 史
 弁護士になって、1年が過ぎました。日々勉強をさせていただいておりますが、この1年で特に印象的だった、裁判員裁判の模擬裁判に弁護人役として参加させていただき学んだことをご報告させていただきます。
 私は、裁判員裁判実施推進センターの委員を務めさせていただいております関係で、平成19年11月12日から14日までの3日間、模擬裁判の弁護人役をさせていただきました。3日間も事務所を空けることを快諾してくださった事務所のボスには感謝の言葉もありません。
 模擬裁判は、殺人未遂事件を題材としたものでした。弁護人役は、私を含め59期の弁護士3名が担当することになりました。
 私は、主に冒頭陳述と被告人質問を担当しました。冒頭陳述では、検察側はパワーポイントというビジュアルエイドを利用して、裁判員に分かりやすい冒頭陳述を行いました。これに対して、私は、「手作り感」を出して親しみを持ってもらおうと、紙媒体(模造紙に冒頭陳述の骨子を記載したもの。)を使用して冒頭陳述を行いました。実は、このアイデアは、私の勤務する事務所の兄弁である小林先生のアイデアだったのですが、裁判員の評価はまずまずだったようです。
 しかし、模擬裁判全体を通じて自分の無力さを痛感させられるばかりでした。刑事手続法の理解、尋問技術、弁護側の考えをわかりやすく裁判員に伝える技術等が圧倒的に足りませんでした。
 特に情けなかったのは、私が被告人質問をした後のことでした。私は、裁判員に分かりやすい質問を行おうと考え、あえて、被告人の後ろ側から裁判員の方を向いて質問をしました。被告人質問が終わった直後に、同じ委員会の神山弁護士が私のところに、文字通り飛んで来て、傍聴人の面前で「そんな質問の仕方があるか!」とおっしゃいました。私はポカンとしていましたが、神山弁護士から「後ろから質問をされる人間の身になって考えてみろ。」と教えられ、なんと浅はかな考えで被告人質問に望んだのだろうかと反省しました。
 その他にもたくさんの失敗をしましたが、情けなさと悔しさで歯ぎしりをしながらも、その都度、自分が成長していくのが実感できました。3日間の模擬裁判をやり通した後には、少しだけ自信がついたような気がしました。
 模擬裁判終了後の裁判官、裁判員及び検察官との懇親会では、弁護のよかった点、悪かった点を聞くことができ、大変勉強になりました。同時に、裁判員裁判を迎えるにあたって克服しなければならない問題点を痛感しました。
 私は、この模擬裁判を通じて、弁護人側もこれまで以上に刑事弁護のスキルを向上させなければ、新しい手続には到底対応できないと感じました(私の経験が足りないという根本的な問題を度外視してもです。)。同じ法曹であっても、毎日公判を行っている刑事裁判官や検察官は、いわば刑事手続のプロフェッショナルであり、刑事弁護を生業としているわけではない多くの弁護士との力の差は歴然です。法が期待している「弁護人」としての役目を、多くの弁護士が果たすためには、規則を含む刑事訴訟手続法の正確な理解と、プレゼンテーション能力を含む法廷弁護技術の鍛錬が必要不可欠だと思いました。手続の正確な理解といっても教科書で学ぶだけではなく、実際に使える形で習得しなければ意味がありません。異議一つとっても、身体が自然に反応するまで習得する必要があると思います。法廷弁護技術については、実際の公判を数こなして経験を積むいとまはないので、研修等を通じて、先達の経験を知識として継承していくこと、実践的な研修を繰り返すことが有用だと思うのですが、その機会に恵まれているとは言い難いのが現状ではないでしょうか。
 平成20年1月12日から14日までの3日間、日弁連主催で法廷弁護指導者養成プログラムが開催されます。これは、海外からも法廷弁護に精通した弁護士を招聘して行われる本格的な研修で、おそらく日本で初めての試みではないでしょうか。このプログラムには、全国の著名な先生方が参加されるのですが、私はボランティアスタッフとして参加させていただく機会を頂きました。あくまでボランティアスタッフとしての参加ですが、現場の雰囲気を体験できるだけでも、本当にありがたいと思います。
 私は、今後も研鑽をつんで、裁判員裁判の難しさや弁護人としてのやりがいについて伝えて行きたいと思っています。裁判員裁判に関わることで、この国の司法制度の発展に少しでも貢献できればと思います。
 
 

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