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事実の認定について
弁護士 川 口 誠
先日、薬害C型肝炎救済法案の骨子が公表されました。政府が被害拡大を防止できなかった責任を率直に認め、一定の救済に乗り出したことは評価できるものの、投与事実や因果関係は裁判所が認定するという内容でした。汚染されたフィブリノゲン製剤・第9因子製剤が投与されたのが約20年も前のことで、もはやカルテなどが病院に残っている可能性は極めて低いものと考えざるを得ません。薬害C型肝炎が問題となった段階で投与事実を裏付ける資料の保存ができていれば、救済の対象はもっと広かったものと思われます。今更救済の対象に漏れた患者に費用をかけて裁判を提起させ、投与事実・因果関係の立証をしろと言っても酷な話ではないでしょうか。政府が真に国民の生命・身体等の安全を考えているのであれば、せめて事実を裏付ける資料の保存に目を向ける施策を講じるべきではなかったかと思います。法規範の発動は事実の認定の上になされ、事実の認定は、証拠資料によって裏付けられるものです。とするならば、政府は証拠資料の保管、開示というものについてもっと真摯になるべきではないかと思われます。昨今問題となっている年金問題も、結局は資料の保管、事実の認定がなされないために、救済のかけ声ばかりで、現実の救済になかなか結びつかない事態に陥っております。また、学校におけるいじめ問題なども、学校側ではいじめの事実が確認できない以上手の打ちようがないなどという回答がしばしばなされます。確かに、いじめの事実が確認できないまま生徒を処分することが困難なことは十分に理解できますが、事実調査に消極的な学校側の姿勢には憤りを感じることもあります。資料が散逸し、また情報にアクセスできないがために、事実の認定がなされず、紛争が風化するまで野放しにされる事態は、法曹の端くれに身を置く者として、嘆かわしく残念でなりません。政府は事実の認定というものに対する楽観的な姿勢を改め、資料の保管と開示の重要性を認識し、事実の認定を裁判所ばかりに押しつけず、より簡易な事実認定の手法、制度の構築を積極的かつ真摯に提案していくべきでしょう。その場合、日々の業務で事実認定に関わる弁護士が積極的に関与していくことが重要と思われます。
 
 
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